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大阪高等裁判所 昭和63年(ネ)2362号 判決 1989年7月18日

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴人が当審で追加した被控訴人らに対する所有権に基づく別紙登記目録記載の表示登記の抹消及びこれについての承諾の各請求をいずれも棄却する。

三  控訴人が当審で追加した被控訴人らに対するその余の訴え(先行表示登記の申請者並びに先行所有権保存登記の名義人たる地位に基づく、別紙登記目録記載の表示登記並びに原判決別紙登記目録(一)記載の所有権保存登記の各抹消及びこれについての承諾を求める訴え)をいずれも却下する。

四  控訴費用及び二、三項の請求ないし訴えに関して当審で生じた費用は、いずれも控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取消す。

2  被控訴人らと控訴人の間で、原判決別紙物件目録(二)の建物が控訴人の所有に属することを確認する。

3  被控訴人草川清は、控訴人に対し同目録(二)の建物についてなされた原判決別紙登記目録(一)記載の所有権保存登記及び別紙登記目録記載の表示登記を抹消せよ(表示登記の抹消及び先行所有権保存登記名義人たる地位に基づく保存登記の抹消については当審で追加的変更)

4  被控訴人滋賀県信用保証協会及び被控訴人びわこ銀行はそれぞれ前項の各抹消登記手続を承諾せよ(3項末尾に付した括弧内の各登記抹消についての承諾につき前同)

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人草川

控訴人の被控訴人草川に対する本件控訴を棄却する。

三  被控訴人株式会社びわこ銀行(以下「被控訴人銀行」という。)

1  控訴人の被控訴人銀行に対する本件控訴を棄却する。

2  控訴人が当審で拡張した被控訴人銀行に対する各請求をいずれも棄却する。

3  主文五項に同じ。

四  被控訴人滋賀県信用保証協会(以下「被控訴人協会」という。)

1  控訴人の被控訴人協会に対する本件控訴を棄却する。

2  控訴人が当審で拡張した被控訴人協会に対する各請求をいずれも棄却する。

3  主文五項に同じ。

第二  当事者の主張

次のとおり付加、訂正するほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

一  原判決の付加、補正

1  原判決三枚目表六行目の「表示登記」の次に「(以下、これを「先行表示登記」という。)」を、同行目の「保存登記の次に「(以下、これを「先行保存登記」という。)」をそれぞれ加え、同一三行目及び同裏三行目の「に対応する」をそれぞれ「と同一性を有する」と改め、同裏二行目の「(一)の登記」を「後行保存登記」と改め(以下、原判決中の「(一)の登記」については、右のとおり言いかえるものとする。)、同行目の末尾に「そして、表示登記は、後に変更されて別紙登記目録記載の表示登記(以下これを「後行表示登記」という。)とされた。」を加え、同五行目の「の所有権」から同六行目の「物」までを「及びこれと同一性を有する(二)の建物」と、同八行目の「につき、」を「についてなされた後行表示登記に後続して」と、同一二行目の「登記簿上(二)の建物として表示されている」を「(二)の」と、同四枚目表五行目の「(一)の建物」を「(二)の建物」と、同行目の「(二)の建物の保存登記」を「後行保存登記」とそれぞれ改める。

2  同裏二行目の「(一)建物の売買」を「(一)の建物についての本件売買」と改め、同五行目の「なされた。」の次に「また、本件売買契約には、所有権移転時期を代金支払完了時とする旨の特約はなかった。」を、同七行目の「なしたこと」の次に「及び右表示登記が後に被控訴人草川の申請により変更されて後行表示登記とされたこと」を、同九行目の冒頭に「被控訴人草川は、本件売買契約の締結により、(一)の建物の所有権を取得した。また、」をそれぞれ加え、同一〇行目の「めんせき」を「面積」と、同一一行目の「(一)の」から同一二行目の「また」までを「その意味でも」と、同五枚目表一行目から四行目まで及び八行目をそれぞれ「(一)請求原因1の各事実については、被控訴人草川に同じ」とそれぞれ改める。

3  同九枚目(登記目録)表二行目の「二月」を「五月」に、同七行目の「二一日」を「一二日」にそれぞれ改め、同一二行目の末尾に「変更」を、同一三行目の「三〇〇〇万円」及び同裏五行目の「六〇〇〇万円」の前にそれぞれ「金」を加え、同裏一行目を削る。

二  当審における主張

1  控訴人(訴えの追加的変更とその原因)

(一) 先行所有権保存登記名義人たる地位に基づく後行保存登記の抹消及びこれについての各承諾請求の原因

(一)の建物について、いったん控訴人が昭和四九年五月一五日に真正な保存登記たる先行保存登記を行い、かつ控訴人が所有権を有する時点で、この建物と同一性を有する(二)の建物について被控訴人草川が二重に後行保存登記をした以上、後行保存登記は、その後右建物の所有権が控訴人から被控訴人草川へ移転したとしても、不動産登記法一五条に反し無効であり、抹消さるべきものであることに変わりはなく、その後のこの建物についての物権変動は、あくまで控訴人の先行保存登記を起点としてなされるべきものである。

よって、控訴人は、先行保存登記名義人たる地位に基づき、被控訴人らに対し、後行保存登記の抹消及びこれについての各承諾を求める。

(二) 所有権に基づく後行表示登記の抹消及びこれについての各承諾請求の原因

(1) 前記の訂正後の原判決「事実」第二、一の「請求の原因」1、2に同じ

(2) よって、控訴人は、所有権に基づき、被控訴人らに対し、後行表示登記の抹消及びこれについての各承諾を求める。

(三) 先行表示登記の申請者たる地位に基づく後行表示登記の抹消及びこれについての各承諾請求の原因

(一)の建物について、控訴人の申請により先行表示登記がなされた後に、この建物と同一性を有する(二)の建物について被控訴人草川の申請にかかる後行表示登記が二重になされている。

この後行表示登記は、右の建物についての所有権が右当事者のいずれにあるかを問わず、不動産登記法一五条に反して無効であり、また、控訴人は先行表示登記の申請を行った者たる地位に基づく私法上の請求として、被控訴人らに対して、後行表示登記の抹消及びこれについての各承諾を求めることができる。

よって、控訴人は、右の地位に基づき、被控訴人らに対し、後行表示登記の抹消等を求める。

2  被控訴人銀行、同協会

(一) 控訴人主張(一)の事実及び主張は争う。

(二) 控訴人主張(二)については、前記の訂正後の原判決「請求の原因」1、2に対する各答弁に同じ。

(三) 控訴人主張(三)の事実及び主張は争う。

二重の表示登記のいずれを抹消するかについては、これらに基づく権利の登記が既になされている時点では、いずれの権利の登記が現実の権利関係を正確に公示しているかという観点から判断すべきものであるところ、これについては後行保存登記が実体的権利関係に合致しているのであるから、表示登記についても、後行のものが有効とされ、先行のものが無効として抹消さるべきであり、控訴人の主張は理由がない。

第三  証拠関係<省略>

理由

一  次のとおり、付加、補正したうえ、原判決理由説示一を引用する。

1  原判決五枚目裏二行目の「原告と」から四行目の末尾までを「当事者間に争いがない。」と改める。

2  同五行目の冒頭に「請求の原因1(二)の事実については、本件売買契約の締結自体は当事者間に争いがなく、その詳細については、」を加える。

3  同八行目の「合計」の次に「約」を加え、同一〇行目の「そのうち」から同一一行目の「ついては」までを「これから」と、同一一行目の「右」から同一二行目の「これを」までを「右金員相当額を」と改め、同六枚目表一行目の「(一)の建物」の次に(ただし、後記のとおり、売買の時点では、既に改築により(二)の建物となっていた。)を加え、同六行目の「甲第二五、」から同七行目冒頭の「一部、」までを「甲第二五号証の記載の一部」と改め、同八行目の「ない」の次に「。」を加え、同行目の「(」から同九行目の「)」までを削り、同一二行目の「(一)」の次に「ないし(二)」を加え、同一三行目の「(一)の」を「右」と改める。

二  以下の判断についての前提たる事実

<証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。

1  控訴人は、被控訴人草川の勧めにより、昭和四八年から四九年にかけて同被控訴人の所有する土地上に同被控訴人において請負契約の保証人となる等その全面的な協力のもとに、右両者共同経営の貸ビルにする目的で(一)の建物を建築し、昭和四九年五月九日これについて先行表示登記が、同月一五日には控訴人名義の先行保存登記がなされた。

2  ところが、同年四月一〇日ころ、控訴人は、右建物の建築確認申請が無効であるとの理由で大津市長から使用禁止通知を受け、さらに同年五月二三日ごろには同市長から同建物を違反建築物として取扱う旨の通知を、また都市計画法上の許可を受けていないとの理由で滋賀県大津土木事務所長から事情聴取の呼出を受けるに至った。そこで控訴人と被控訴人草川は話合いのうえ、やむなく被控訴人草川において(一)の建物を規制に適合するように改築し、また建築確認を出し直すこととした(右建築確認をいずれの名義で行うこととなっていたかについては、右当事者間に争いがあるが、現実には、これは被控訴人草川の名で行われた)。

3  その後昭和五〇年五月ころまでの間に、被控訴人草川は、右の新たな建築確認を受け、自ら改築費用を負担して、四階建の(一)の建物の四階部分を撤去し、二階の床を抜いて二階建とし、屋根をコンクリートから瓦ぶきにし、外装を全面的に変更する等の改築工事を行い、その結果、右建物は、外観上鉄骨造陸屋根二階建一階七八・七三平方メートル、二階七六・五八平方メートル(再改築前の(二)の建物で後記6の表示登記と一致)となった。しかし、右改築にあたり(一)建物の柱、壁等の主要な構造部分にはほとんど手がつけられなかった。

なお、被控訴人草川は、後期4の同人の右建物取得後の昭和五五年ころに右建物について、右改築時に取りはらった床を再度入れて三階建にする等の若干の改築を行い、(これにより、右建物は、別紙登記目録記載の表示登記どおりの外観を有する建物となった。)これに伴い後記6の表示登記を変更して、後行表示登記とした。

4  控訴人と被控訴人草川の間では、2の通知等のあった直後から、控訴人が右ビル経営に対する熱意を失い、被控訴人草川において(一)ないし再改築前の(二)の建物を買取る話が進められていたが、被控訴人草川の出捐にからみ売買代金額が折り合わず、結局最終的に本件売買契約が締結されたのは、前記認定のとおり、昭和五一年九月であった。

5  そして、右売買においては、所有権の移転時期を売買代金の完済時と一致させる等の所有権移転時期についての特別の合意はなされなかった(前掲甲第二五証の二、三条の記載がこのような合意にあたらないことはいうまでもない。)

6  ところが、被控訴人草川は、右売買契約の成立をまたず、3前段の改築直後の昭和五〇年五月に再改築前の(二)の建物について表示登記の申請をして、同月一七日には前記の再改築前の二階建建物の表示登記が、さらに同月二二日にはこれを前提として同人名義の後行保存登記が各経由された。

7  また、被控訴人草川は昭和五〇年末ないし昭和五一年の初めころ再改築前の(二)の建物に入居したが、控訴人はこれについて特に異議を述べなかった。

原審における被控訴人草川本人尋問の結果(一、二回)のうち右認定に反する部分については、関係各証拠に照らし、これを採用することができない。

三  (一)建物と(二)建物の同一性

二3の事実によれば、改築前の(二)建物は、(一)建物の一部を取りこわし、四階を二階とし屋根の形態を変える等して改築されたものであるが、改築の前後を通じ、(一)建物の主要構造部分にはほとんど手が加えられていない。してみると、右両建物には物理的にはいうまでもなく、階層の縮少、床面積の半減にかかわらずなお法律的にも同一性があるものというべきであり、なお被控訴人草川が右改築の過程で(一)建物に付加した改築部分は、これに附合したものであるといえる。

また二3後段のその後の三階建の建物への再改築が建物の同一性を失わしめるようなものでないことについては、疑いをいれない。

そうすると、右建物についてなされた先行・後行の各表示登記は同一の建物についてなされた二重登記であるということになり、また、これらに後続して控訴人と被控訴人草川をそれぞれ名義人とする先行・後行の各保存登記があることになる。

四  (二)建物の所有権の帰属

二4、5の事実によれば、(二)建物の所有権は、昭和五一年九月の本件売買契約締結と同時に控訴人から被控訴人草川に移転しており、控訴人は、現在右建物の所有権を有しないというべきである。

五  控訴人の所有権確認請求並びに所有権に基づく後行表示登記及び後行保存登記の各抹消等請求について

控訴人は、前記四のとおり昭和五一年に本件建物の所有権を喪失しているから、右各請求はいずれも理由がない(なお、弁論の全趣旨により、被控訴人草川は、右後行表示登記の抹消請求についての請求原因事実を争うものと認める。)。

六  控訴人の先行表示登記の申請者たる地位に基づく後行表示登記の抹消等の訴えについて

1  本件は、前記のとおり、同一の建物について二重の表示登記(狭義の二重登記)がなされ、かつこれらに後続して、登記名義人を異にする所有権保存登記がなされており、後行の表示・保存登記については、登記の当時所有者ではなかった被控訴人草川の申請によってなされているが、同人は後に右建物についての所有権を取得したという事案である。

以下、これを前提として、右の訴えについて考える。

2  二重の表示登記の抹消については、本来登記官の職権によって行われるものであり(不動産登記法二五条の二)、表示登記の申請当事者間及び利害関係人はその職権の発動を促すにすぎないから、原則としてこれについて登記請求権を考える余地はない。

しかし、建物につき二重の表示登記があって、これに後続する各所有権保存登記名義人が異なり、また、各登記に対応する建物の同一性の有無や所有権の帰属について争いがある本件のような場合(この場合には、右のような職権発動の申出があっても、職権により抹消が行われることは現実には非常に困難な場合が多いであろう。)には、無効な表示登記が実体法上の所有権者の所有権の円満な行使を妨げているとみられるから、所有権に基づく妨害排除請求に類する請求として、真正な所有権者に無効な表示登記の抹消等の請求を認める余地があると考えられる。

けだし、二重表示登記の抹消については、本来不動産登記法二五条の二により、職権で抹消がなされるべきものではあるが、これについて、単に職権発動を促すにとどまらず、不動産登記法九三条の一一の類推による申請に基づく抹消を認める余地がないではなく、また法二五条の二による登記官の実体調査には現実には制度上の限界があり、前記のように建物の同一性に問題があり、はたして二重登記であるのか否かが明確でない等の事情がある事案については、いずれかの表示登記に後続する所有権保存登記名義人の自己の申立にかかる表示登記の抹消の職権発動を促す申出のない限り、職権による抹消は期待できず、他方、このことにより、いずれかの表示登記がいずれは抹消される可能性があるまま存続するという不安定な状態におかれ、ために、建物の所有権者にとっては、二重の表示登記の存在自体が取引の障害となる等円満な権利行使の妨害となっているという状態があるものというべきであるから、このような場合には、現存建物の所有権者は一種の物上請求(妨害排除請求)として、他方の二重表示登記に後続する所有権保存登記の名義人に対し、同表示登記の抹消を請求する登記請求権を有するというベきである。

3  この点につき、右のとおり、当裁判所は、私法上の登記請求権を認める余地があると解するものであるところ、控訴人はこれにとどまらず更に実体上の所有権の帰属にかかわらず、常に先行表示登記の申請を行った者たる地位に基づいて後行表示登記の抹消を請求することができると主張する(この考え方は、二重の表示登記の職権抹消の基準についての登記実務の先例に類似した考え方ともいえる。)。

しかし、このような考え方をとると、例えば未登記不動産の二重譲渡の場合について、所有権保存登記を先に得た者であっても、その者の申請にかかる表示登記が後行のものであればその表示登記は抹消されてしまい、また他方の者が先行の表示登記に後続して所有権保存登記を得れば、たとえこの保存登記が前記の保存登記の後になされたものであっても、もはやこれに対してなんらの請求を行えず、結果的には表示の登記に対抗力を認めたと同様の結果になり、また不動産の譲渡当事者間についてみても、抹消された表示登記に後続していた所有権保存登記の名義人は、自己の登記の実現を図るには、別訴において、存続した表示登記に後続する所有権保存登記の抹消請求等を行わねばならないという手続上の負担を強いられることになる。

4  しかして、控訴人援用にかかる不動産登記法一五条は、元来権利関係の公示に混乱を来すことを防止するための手続的規定であるところ、控訴人が主張するごとく、後行の二重表示登記については、そのことだけで同条に反して手続的有効要件を欠くものであるとの考え方をとり、実体上の所有権の帰属にかかわらずこれを抹消すべきであるとするような考え方をとるならば、これにより実体上の所有権者に対して前記のような無用の不利益、負担を強いることとなり、実体上の権利関係に対応した正確な公示によって取引の安全と円滑に資するという不動産登記制度の根本的な要請に反する場合が生じうることになる。

このような点から考えると、控訴人の右主張は、相当でないものといわざるをえない。

5  以上の見地にたって、控訴人の前記の請求の可否について考えるに、控訴人は前記四のとおり昭和五一年に本件建物についての所有権を喪失しているから、同人について(二)で述べたような表示登記の抹消等の請求権を考える余地は既にこの点においてなく、同人の前記の各訴えは、いずれも権利保護の利益を欠くものというべきである。

七  控訴人の先行保存登記名義人たる地位に基づく後行保存登記の抹消等の訴えについて

1  自己の名義の所有権保存登記を持たない実体上の所有権者が、無権利の所有権保存登記名義人に対して抹消登記請求権を有することについては、特に異論をみないものと考えられる。

そして、この理は、右実体上の所有権者が、二重の表示登記に後続する二重の所有権保存登記名義人のいずれかである場合についてもそのままあてはまるものであると考えられる。

後者の場合については、実体上の所有権者は、自己名義の所有権保存登記を既に得ているので、無権利者の所有権保存登記を抹消しなければ自己名義の所有権保存登記をすることができない前者の場合に比すれば、その権利の実現についての障害の程度は、その意味では小さいものの、実体的権利関係にそぐわない権利の登記の存在により、所有権者が実体上種々の不利益を被る可能性があるという点では、後者の場合においても前者の場合と異なるところはなく、実体上の所有権者の所有権の円満な実現を図るために、これに対して、実体的有効要件を欠く権利の登記を抹消する請求権を認める必要性があるという点では、両者には本質的に異なるところがないからである。

2  これを本件についてあてはめると、控訴人と被控訴人草川の所有権は、二重譲渡のように互いに相入れない関係にあるものではなく、被控訴人草川の所有権は、控訴人の所有権の存在を前提としてこれを承継するものであるから、このような場合には、各保存登記の先後、各保存登記がなされたときの所有権の所在にかかわりなく、譲渡当事者である前記の者らの間で現在所有権がいずれにあるかにより、抹消請求権の有無を考えるベきである。

すなわち、これから登記をなすのではなく、現時点においていずれの登記が有効かを定むべきときには、必ずしも物権変動の過程に即さなくとも、現在における実体的権利関係に合致した登記を有効とみて、この観点から不真正な登記を排除すべきである。けだし、登記制度は、まずもって、現在の権利関係を正しく反映し、これによって不動産取引の安全を図ることを目的とするものであるからである。そして、この理は、本件のように実体的有効要件を欠く登記につき、後にこれに対応する実体関係が発生した場合においても異ならないものと考えられる。

3  以上によれば、既に所有権を喪失した控訴人の前記各訴えは、いずれも権利保護の利益を欠くものというべきである。控訴人は、権利の登記たる保存登記の抹消について、実体法上の所有権を離れて私法上の登記請求権が生ずると主張し、その根拠として不動産登記法一五条を掲げるが、同条により律される二重登記は、あくまで二重の表示登記であって、これに後続する二重の保存登記については、狭義の二重登記の問題ではなく、これについては、実体上の権利関係を離れた私法上の登記請求権を観念する余地はおよそないといわねばならない。この点に関する控訴人の主張は、およそ理由のないものと考えるほかはない。

七  結論

以上によれば、原判決中控訴人の被控訴人らに対する所有権確認請求及び所有権に基づく後行保存登記の抹消等の各請求棄却した部分は相当であって本件各控訴は理由がないからいずれもこれを棄却し、また控訴人が当審で追加した各訴えのうち所有権に基づく後行表示登記の抹消等の各請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、先行保存登記名義人たる地位に基づく後行保存登記の抹消等の各訴え及び先行表示登記の申請者たる地位に基づく後行表示登記の抹消等の各訴えは、いずれも権利保護の利益を欠くからこれを却下し、民訴法三八四条一項、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 潮 久郎 裁判官 杉本昭一 裁判官 瀬木比呂志)

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